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ひょっとしたら、私は透明人間かも知れない。薄々は感じていたが、確信した。 日曜日、愛妻が映画を観に行っている。お腹がペコペコではあるが、待ってみよう。時計が夜の9時を回っている。「ただいまー」。ほっ、ようやく食事にありつける。「ごめんねー、お腹空いたでしょー、ごめんね」。玄関先で聞こえる声、かわいいなぁ。いやいや、すぐ用意して頂けるなら問題ありませーん。 口に出して言えば良かったが、笑顔でアイコンタクト。ところがその目は私を見ていない。ソファーで寝そべっている愛犬に注がれていた。「すぐ用意するからネ、待っててネ」って、ゲッ、あのごめんねは、やはり、私にではなかった。 「あのう、夕食は?」やっとのことで声に出せば、「あら、いたの、勝手になんか食べてればいいのにっ」であった。そりゃそうだ。 が、私は閃いた。夕食にありつく為には、今度からは映画は一緒に観に行けばいいのだ。で、次の日曜日ラブロマンスのレイトショーを二人で観に行った。館内はパラパラだったがカップルばかりで、いいムードである。 愛妻の目は画面に釘付けだが、暗がりの中で私の手をツンツンと突いてくる。手を握って欲しいのかと思い、指を絡ませようとしたら、「ポップコーン、ポップコーン」と声がした。「あ、そう」。
しばらくすると、物語は佳境に入ってきた。すすり泣く声が聞こえる。やっぱりかわいいなぁ。ハンカチをそっと渡そうと、今度は私が手をツンツン。するとどうだろう。私の右手を握り返すではないか。指を絡ませたいのかナ、と思った瞬間、私の手の平にはおびただしい数のポップコーンが注がれた。なるほど、あんなに大きなカップに入っているコーンを食べていれば、お腹が一杯になるはずである。しかも、映画が終われば「あらよっ」と席を立ち、ズンズンと早足で歩いて行く。一緒に来たことを完全に忘れているのだろう。ネ、やっぱり私は透明人間でしょ。 かくして愛妻が映画を観に行った夜は、夕食を作ってもらえないのは当然であることが判明したのだった。
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