フリーマガジン 『リセット』 で大人気連載中の会長執筆のコラムをご紹介いたします。


 愛妻が焼きもちをやくほど亭主、モテもせずである。

 黒木瞳が大ブレイクのようだ。女性達の憧れの存在で、その人気は衰えを知らない。コマーシャルで、「ツバメでそれ!」などと言っている仕草のかわいいこと、かわいいこと。

 思い起こせば、あの頃と少しも変わっていない。彼女のスキャンダルになるといけないから口をつぐんでいたが、かつて黒木瞳と朝食を共にしたことがあった。それは新宿のホテルだった。

 人目を気にしたのだろうか、彼女は1階レストランのらせん階段の下に座った。スクランブルエッグとフレンチトーストを選んで、脚本に目を通し始めた。

 私は、いつものようにサニーサイドエッグをシェフにリクエストし、アメリカンコーヒーを口にする。

 二人とも言葉は交わさなかった。いや、言葉はいらなかった。

 新聞に目を通していると、彼女が頼んでいたデミカップのカプチーノが運ばれてきた。

 透けるような肌。真っ白い指先、口元の愛らしさは思い出せば、今でもゾクッとするほどだ。二人の間にたおやかな時間が過ぎていく。外国の客が多いこのホテルでは、

 「あ、黒木瞳だ」

 「ウッソー、天野周一よ」

 などと騒がれることがなかったのは何よりで、何のトラブルも起きなかった。

 そう、夢のようなひとときだった。愛妻がいつも言う。

 「ホラばっかり吹くんじゃないの」。  だが、この話しだけは天地天命に誓って真実である。
 ただ、唯一の問題は、彼女が隣のテーブルだったことだけだ。

 ウーサブ。寒波が身にしみる。昨年暮れ、股引(我家ではピーチプルと呼ぶ)を裏返しに履いて帰ったおかげで、とんでもない正月を過ごした天野ではある。

 いけなかったのは、ピーチプルの上にトランクスを履いていたこと。暗闇の中でズルッと脱いであわてて着用したのだろう。さんざん問いつめられ「サウナに入っただけ、もう二度と股引を履きません」と抵抗したが、反省の色がないとムチ打ちの刑。
 フローリングで何日過ごせばいいのだろうか。誰か、助けて下さーい。



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