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あの頃は良かった。「いってらっしゃい」と玄関先で必ず見送ってくれたものだ。
つい最近までは、ベッドの中で手を振ってくれていたような気もするが、今朝は、「行ってくるよ」に対して、「まだ、居たの」である。しかもトイレの中からだった。
が、これはトレーニングの一貫である。男たるもの、いつ、いかなる時でも平常心を忘れないようにとの訓練をさせて頂いているのだ。年々訓練は激しさを増しており、もうすぐグリーンベレーに昇格するかもしれない。
昨夜夕食が出なかったのは、友人の奥様方とディナーで遅くなったから、「作りたくない!」などということではなく、最近太りぎみの私の食生活の改善に他ならない。
時々、冷えきったフローリングに寝かされることもあるが、背骨の矯正に大事なことで、お皿や茶碗が飛んでくるのは、素早い身のこなしをチェックされているのだ。
さて、男には2種類しかないことが判明している。尻に敷かれる男と尻に敷かれつつある男である。が、どちらもやがて必ず尻に敷かれていく運命にある。
男とは、オヤジとは何と可哀想な生き物であろうか(笑)。, まれにではあるが、「オレは尻になど敷かれたくない!」と抵抗している不届き者がいるようだが、結果、熟年離婚が待っているのは目に見えている。その点、全国亭主関白協会では、いかに「上手に尻に敷かれるか」を日々研究しており、会員は何とか首の皮1枚で繋がっているような状況である。
会長である天野はいつ果てるとも知れない厳しい訓練に耐えているせいか、平常心を越え、不動心の域まで達しており、このまま即身成仏になることも可能な程だ。
全亭協の東京支部長から、「家にいる間、愛妻といかに目を合わせないか」の研究発表があり、もっか、そのレジメに赤線を引いている最中だ。
そんな私が唯一心を乱し、狼狽するのは、愛妻が深夜、私のベッドサイドに枕を持って立っている時である。
もちろん翌朝も、とりわけ厳しい訓練が待っていることはいうまでもない。
いかん、何もかも実力不足だ。
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