フリーマガジン 『リセット』 で大人気連載中の会長執筆のコラムをご紹介いたします。


 男にはどうしても断れないつきあいがある?

 賢明な読者の皆さんならお気づきであろう。私はだらしない男である。第一、頼まれごとを断れない。酒が入っていればなおさらだ。つい先日もそうだった。「鮨が食べたぁーい」という女がいて、断れなかった。

「家まで送ってくれない?」を断れなかった。「お茶でも飲んでかない?」もとうとう断れなかった。気がついたら、湯船に浸かっていた。髪を洗いながら鼻歌がでている自分に我にかえった。「オイオイなんてことをしてるんだ」愛妻の顔が頭をグルグル回って、冷や汗がドッと出てくる。急いで帰ろうと思った瞬間、バスタオルを巻いた女が目の前に立っていた。思わず私も立っていた。どこがっ。

「こんなことをしているのは私じゃないっ、私じゃないし…」気がついたら朝だった。どうすりゃいいんだ、と深く反省をしていたら、モーニングコーヒーが出てきた。これがうまいのなんの。そういう問題ではないっ。自己嫌悪と甘い余韻が交互に頭の中を駆け巡る。

「そうだ、電話だ、電話をしなきゃ」

「モシモシ。気がついたら朝。もう、この歳になると仕事で徹夜はキツイよなあ。(声のトーンを落として)大きな声じゃ言えないけど、愛してるよっ」

「って、私にかけてどうすんのっ」75歳になる母だった。間違えて実家にかけたらしい。携帯電話はこんな間違いがちょくちょくおきるから要注意だ。慌ててかけ直す。

 「どうか出ませんように」電話をかけているのに出ないようにも、ないだろうが怖いんだもの。トゥルル…トゥルル…。7回、8回、よし、もう切ろう。カチャッ。出たよ。

 母に言った言葉を復唱する。予行練習ができてたのが幸いしたのか、セリフはスムーズだった。返ってきた言葉はひとことで「ホウ…」ここでひるんではいけない。何かたたみこまなきゃ、である。

 昼は全国亭主関白協会の会長だが、夜になると全国亭主淡白会長と、愛妻から落印を押されているのだ。

「ホウとは何だ。徹夜で仕事をしている私に、おつかれ様のひとことが言えないのかっ、今日はこのまま会社に向かうぞ」「ブチッ」受話器の向こうで、何かが切れた音がして、ワメキ声が聞こえてくる。意識が遠のいて、呼吸が出来ない。来月号にコラムが載れば、私はまだ生きている。



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