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なんとなくむし暑い夜だった。少し汗ばむが、気分は上々。
風呂場で服を脱ぎ下着になった。何げなく鏡を見たら半袖の丸首シャツの胸のところに口紅がベッタリついている。
「なんなんだ、これは!」頭が真っ白になった瞬間、愛妻の声が聞こえた。
「バスタオルはこれを使ってね」いかん、こっちへやってくる。下着を脱いだら必ず手にするだろう。
窮地に陥った人間は恐ろしい。何を思ったのか、シャツとパンツをつけたまま浴槽に飛び込んでしまった。
心臓が今にも張り裂けそうだ。脱衣場にタオルを置いて出ていく気配をうかがった。
息を潜めるという言葉があるが、あれはウソで、「息ができない」が、ほんとうだ。まさか、風呂場を覗くハズはない。 万が一にも覗かれたら下着をつけたまま風呂につかっている私を見て、何と言うのだろうか。
恐い、恐すぎる。そうだ!口紅を落とすんだっ。
手でこすってみた。「なんなんだ、これは!」口紅が広がってきたじゃないか。
あんなに小さかった赤色が、胸いっぱいに広がってしまった。「神様、次の一手を教えてください。もう心臓が口から半分出てますぅ」あっそうか、脱ごう、脱げばいいんだ。
耳をダンボのように澄ましてみる。おいおい、まだ脱衣所から出て行ってないぞ。何かぶつぶつ言っているよ。
「とりあえず脱ごう!」とシャツに手をかけた。水に濡れたシャツが簡単に脱げないことはその時わかった。
こうして人は溺れていくのか、と納得しそうになった時、風呂場のドアが、カチャリ。万事窮す、絶体絶命。ジーザスクライス。
シャツは首の所で引っかかって、テルテル坊主を逆さまにした状態である。
息ができない、何も見えない。ク、ク苦し〜い。と、その時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」愛妻はUターン。風呂場からやっと出ていった。
神様は確かに存在する。何て運の強い男なんだ。ゴッドブレスユー。こうして夏の短い夜は過ぎ去ってゆく。
全亭協諸君。君たちはまだまだ甘い。会長は苦労しているのだよ。
しないでいい苦労かも知れないがね。ハッハッハッ…。
何ごともなかったようにベッドにスルリッと入ったら愛妻がポツリと言った。
「今度からお風呂に入る時は裸で入ってね」オーマイガッ。
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