 |
無理に無理を重ねて外車を買った。50歳を過ぎれば多少のワガママは許されるだろう。
が、親子3代にわたる由緒正しい貧乏人の私には困った問題があった。
左ハンドルにも関わらず、右ドアを開けて乗り込むクセである。そこは助手席でハンドルはついていない。
つい先日とんでもない場所でそのクセが出てしまった。あるホテルで知人の結婚式の二次会があった。
ロビーで談笑しながらフロントに出ると、ホテルマンが車を横付けしてくれていた。10人程が見送りに出てきた。
「カワイイ奥さんじゃないか、キミも年貢の納め時だナ。ハハハ…」と笑いながら乗り込んだのは助手席だった。
目の前にはやっぱりハンドルはなく、私の手は空をきった。
見送りに出てくれたみんなの顔を見回すと口をポカンと開けている者ばかりで、慌てて目をそらす者、ロビー方面へ駆け込もうとする者。
まるでバクダットに打ち込まれた砲弾が炸裂したかのような光景で、その時間は永遠に続くように思われた。
が、百戦錬磨の私にはあるひらめきが浮かんだ。
目の前のダッシュボードを開けるとおもむろに小さな包みを取り出した。
ゆっくりドアを開け新郎新婦に近づくと、「あぶない、あぶない、女房から頼まれていたキミ達へのプレゼントを忘れるところだった。ハイ」後ろを振り向くと、静かに車に乗り込んでホッとした。
今度はハンドルがあった。そうそうこれが車のハンドルだ。
丸くてかわいいヤツのよう。思わず、心の中でつぶやいた。バックミラーを覗くとなぜか全員が腹を抱えて笑っているようにも見えたが、気のせいだろう。
後は、その場で紙袋を開けないことを祈るばかりだ。その品物は、愛妻の機嫌を取ろうと買っておいたハラマキであった。
しかもラメ入り。初夜にハラマキして何すんの感はいなめない。アリャリャ。
|
|
 |