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岡山県は備中高梨(びっちゅうたかなし)駅前に呆然と立ち尽くしている。まだ学生も帰宅中の5時だというのに地頭(じとう)行きの最終バスが出たという。もったいないがタクシーで行こう。あの有名な「わら」へ。
運転手に告げると、「ウヘッ」普通は「ハイ」だろが、「ウヘッ」である。不安は的中した。やはり、とんでもない山奥で、想像もつかないことが起きているらしい。
全国でも5本の指に入る修行僧と勝手に睨んでいる野口法蔵師が主催する、座禅断食の会に参加するのだ。朝から自主断食をせよとの指令で何も口にしていなかった。
集合時間の午後6時には間に合わなかったが、着いた途端、パンの注文票が回ってきた。当然お腹ペコペコ。意味もわからずあれもこれもと大量注文。
「ま、夕食はパンだけでも良しとしよう」
甘かった。 3日間の断食明けから、ようやく食する唯一の食べ物、玄米パンを先に注文しとく段取りであった。それは「わら」を出る時に渡されるものだった。
全国から17名が集まっていた。現世のブタは私だけで、他の16名はどこにも脂肪が見当たらない顔と体つきだった。
今日から3日間のスケジュール説明があってはいるが、何しろ朝から何も食べていないのだ。「グウ」お腹の虫が鳴っている。しーんと静まり返った会場に、 「グルグルグル、ムギュー、グウ、ギュル」などが鳴り響く。
「いかん、止めなければ」
下腹に力を入れたら、おならが「プウ」である。さして大きな音ではなかったが、輪になって断食の意義を聞いている対面の美女が一瞬天を仰いだばかりで、「プウ」を誰も笑わなかった。
その理由は3日目の朝にわかった。
「もう帰りたいよー」
この言葉だけが頭の中を駆け巡っていた。 |
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